椅子の木

椅子の材料としては最もメジャーな素材はおそらく「木」でしょう。


大きく針葉樹と広葉樹に分かれる木ですが、針葉樹の代表は「ヒノキ」や「スギ」、広葉樹も代表は「ナラ」や「ブナ」と
いったところでしょうか。あまり木に詳しくない方も、名前を耳にしたことがあると思います。


木にはそれぞれ、木目の柄や色などの視覚的な特徴と堅さや粘りといった性能の特徴があり、どの木を選ぶかで椅子の印象や
耐久性などが大きく変わってきます。椅子のデザインや設計をするプロは様々な木の特性も知っておく必要があるのです。


そんな訳で私も普段、木の家具をデザインしているので、木の種類や特徴についてはそこそこ、わかっているつもりでいるの
ですが、実は長く疑問に思っている「木」があります。


その名もズバリ!「イスノキ」


椅子用の木だからイスノキ?・・・・でもイスノキで作られた椅子なんて見たことも無い。そもそも家具用材でイスノキ自体
ピンときません。そこで調べてみました。色々な文献によると・・


イスノキは日本古来からあるマンサク科のイスノキ属の常緑樹で本州(関東以西)、四国、九州、沖縄、など暖地に自生。
実はかなり身近にある木なのです。葉っぱにコブのできる木で、よく垣根に使われると言えば、ピンとくる人もいるでしょうか。
わからない方のために、写真を用意しました。関東以西の方はお住まいの周りを探すと比較的簡単に見つかるかもしれません。


材料としては、辺材は紅味を帯びた淡黄褐色、心材は紅味を帯びた褐色から紫 褐色で、ときに縞状の濃淡があります。
日本産の木の中で最も重硬で強度も大きく、加工は困難で、割れにくく、耐朽性が高いのですが、一般の用途には硬すぎるため
独特の用途に使われることが多いようです。


家具では机、台、棚などの指物、器具材では盆、花托、そろばんの枠と玉、木槌、建築材としては体育館の床などがあるのですが、
とくに櫛(くし)が有名で材料としてはツゲの次に良いものとされます。木刀なども有名ですね。スヌケと呼ばれる芯材で作った
木刀はチョコレート色で贈答用の高級品として黒檀に並んで人気が高いそうです。
逆に辺材の木目はボヤッとした感じ。


何となくどんな木かわかりましたが、どうやら肝心の椅子にはほとんど使われていない様です。


なぜ「イスノキ」なんて名前なのでしょうか?
色々調べてみましたが、色々な説があるようですが、どれも確実性に欠けるものばかりで今ひとつよくわかりません。


有力なところでは、イスノキは、日本神話に登場する櫛・ユツツマグシに由来する名前という説があります。
ツマグシ(爪櫛)は、両鬢で頭髪を留める刺し櫛のことで、ユツツマグシの「ユツ」が、「ユシ」または「ユス」に変化して、
「イスノキ」の名となったというもの。結局、あまり椅子とは関係がなさそうです。


イスノキについては別名の由来も面白いものが多いのです。例えば別名「ヒョンノキ」とも呼ばれるのですが、葉っぱにできた
コブを使って笛を作るとヒョーヒョー音のなる笛ができるところから来ています。「ヒョンノキ」なんて変な名前ですが、どこか
で聞き覚えありませんか?日常会話で出てくる「ヒョンなことから・・」という表現。これ、ヒョンノキの実が「イビツで他に類を
見ないほど変わっている」ところから、意外で奇妙な様子を「ヒョンな」と言うようになったらしいです。


まったく椅子とは関係のない話になってしまいましたが、ちょっと面白い話ですね。
                                                        (高)